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本学大学院の荒川航平さんらの論文が、Cartilage誌(インパクトファクター:4.634)のオンライン速報版に掲載されました。

博士後期課程

2022/02/01

膝関節の回旋不安定性の抑制が変形性膝関節症モデルマウスの関節軟骨・半月板変性に及ぼす影響

  埼玉県立大学大学院 博士後期課程大学院生 荒川航平さんらと,同学の国分貴徳准教授(責任著者)のグループは,変形性膝関節症(膝Osteoarthritis;膝OA)※1の主病変である関節軟骨変性について,内側半月板不安定性(Destabilized medial meniscus;DMM)モデル※2と,新たに,DMMモデルで生じる回旋不安定性を制動するControlled abnormal tibial rotation (CATR)モデル※3の解析から,半月板機能不全による回旋方向の関節不安定性を抑制することが,関節軟骨の変性を遅延させることを明らかにしました.しかし,回旋不安定性の有無に関わらず半月板変性は同程度生じていたため,半月板機能不全による関節軟骨変性は,半月板自体の変性による影響よりも回旋不安定性による影響が大きいことが示唆されました.これらの研究結果は,膝OAの関節軟骨変性の一要因を明らかにするとともに,関節不安定性の抑制が有効な介入対象である可能性を示しており,膝OA進行予防を目標としたリハビリテーションの介入根拠確立に向けた基礎データとなることが期待されます.
  この研究成果は、2022年1月24日に,Cartilage誌(インパクトファクター:4.634)のオンライン速報版に掲載されました.

ポイント

 (1)膝OAの小動物モデルであり,関節不安定性と半月板変性が生じるDMM モデルと,新たにDMMモデルの関節不安定性を抑制するCATRモデル(図1)を確立し,この2つのモデルの比較から関節軟骨変性における関節不安定性と半月板機能障害の影響を調査しました.
 (2)CATRモデルでは関節不安定性を抑制することで関節軟骨における炎症因子やタンパク質分解酵素の発現が減少し,DMMモデルと比較して関節軟骨変性が遅延することが明らかとなりました.
 (3)一方,半月板変性は関節不安定性の増減に関わらず,DMMモデル,CATRモデルともに同程度の半月板変性が確認され,関節軟骨変性に対する影響は関節不安定性による異常なメカニカルストレス※4の影響が大きいことが示唆されました.


図1 CATRモデル概要
マウスの大腿骨と脛骨に骨孔を作製し,ナイロン縫合糸を骨孔に貫通させ緊縛することで回旋方向の関節不安定性を抑制させるモデル.

研究背景

 膝OAは関節軟骨の変性,滑膜の炎症,骨棘の形成などを特徴とする関節疾患であり,膝OAの進行は膝関節の痛みや機能障害を引き起こし,日常生活に支障をきたします.膝OAの発症・進行には様々な要因が関与していることが知られていますが,関節不安定性をはじめとした異常なメカニカルストレスが主要因と考えられています.膝関節の安定性には靭帯,筋肉,半月板が重要な役割を担っています.特に半月板は膝関節への圧縮応力を分散するだけでなく,骨の適合性を高め膝関節の運動の制御に不可欠である.しかし,膝OA患者では,半月板の変性を伴うことや,膝関節を構成する脛骨の異常な回旋運動が報告されており,半月板の変性・機能不全が異常な回旋運動,つまり不安定性の要因であることが考えられます.よって,膝OAの主病変である関節軟骨変性には半月板の変性と回旋不安定性が関与していることが推察されます.
 そこで,内側半月板の機能不全による関節不安定性,半月板変性が生じるDMMモデルと,新たに確立したDMMモデルで生じる回旋方向の関節不安定性の抑制するCATRモデルの比較から,回旋方向の関節不安定性が関節軟骨の変性に与える影響を比較検証しました.

研究内容

 対象を12週齢のSlc: ICRマウスとし,内側の脛骨半月靭帯を切断し半月板の機能不全を惹起するDMM群,DMMモデルで生じる関節不安定性を抑制するCATR群,DMM群の対側肢を対照群の計3群に分類しました.外科的介入後8・12週後に膝関節を採取し,関節不安定性の評価,関節軟骨・半月板変性の評価,関節軟骨領域における炎症因子・関節軟骨変性因子の発現を組織学的解析により調査しました.

 結果として,CATR群はDMM群の関節不安定性を抑制することが確認できました(図2).関節軟骨変性について,CATR群はDMM群と比較して関節軟骨変性が抑制されていました(図3).また,関節軟骨領域の炎症因子・関節軟骨変性因子の発現もDMM群と比較してCATR群で軽減していました(図3).一方,半月板変性はDMM群・CATR群ともに対照群と比較して半月板変性が進行していました(図4).

 以上の結果から,回旋方向の関節不安定性の抑制は膝OAの関節軟骨変性を軽減する有効な介入手段である可能性を明らかにしました.また,半月板変性による半月板機能不全は軟骨下骨など関節軟骨以外の組織に影響を与えることが示唆されました.

図2 関節不安定性の評価
自作の外側牽引試験にて膝関節の回旋不安定性を評価しました.DMM群では関節不安定性が増大し,CATR群では8週時点において関節不安定性が抑制されていました.



図3 関節軟骨変性の評価
関節軟骨変性はDMM群で顕著に認められました.一方,CATR群は関節軟骨変性が抑制されていました.同様にDMM群と比較してCATR群における関節軟骨領域の炎症因子と軟骨変性因子の発現も抑制されていました.



図4 半月板変性の評価
DMM群・CATR群ともに同程度の半月板変性が確認されました.

国分貴徳准教授のコメント

 半月板には,膝関節における骨構造の不適合性を補填し,関節面の荷重を分散する機能と,脛骨の関節面状を大腿骨が転がる際に自動車のタイヤ止めのように,大腿骨運動を制御する機能があるとされています.今回の研究結果は,半月板変性や損傷などにより,半月板が本来有している機能が低下あるいは不全化した時に関節軟骨に編成が生じるメカニズムとして,関節の回転不安定生が関与している可能性を示唆するものです.本研究結果は,半月板損傷後のリハビリテーション介入の方向性に示唆を与えるものであると考えています.

用語解説

 ※1変形性膝関節症(膝OA): 関節軟骨の変性を特徴とする関節疾患.疼痛や関節機能障害によって日常生活に支障をきたす疾患である.
 ※2DMMモデル: 膝関節内側の脛骨半月靭帯を切断し,内側半月板の機能不全を引き起こすことで膝OAを誘導する動物モデルである.
 ※3Controlled abnormal tibial rotation (CATR)モデル: 本研究にて新たに確立したモデル.DMMモデルで生じる回旋方向の関節不安定性を制動するモデルである.
 ※4メカニカルストレス: 生体内の細胞や組織が受ける機械的刺激のことを意味する.膝関節に対するメカニカルストレスとして剪断力,圧縮応力,伸張力,静水圧がある.

謝辞

 本研究は,科研費(JP21K19724,研究代表者:国分貴徳)の助成,および埼玉県立大学奨励研究費(18009,研究代表者:国分貴徳)の助成を受け,実施されました.

論文情報

  題名 :Effect of Suppression of Rotational Joint Instability on Cartilage and Meniscus Degeneration in Mouse Osteoarthritis Model
  著者 :Kohei Arakawa, Kei Takahata, Saaya Enomoto, Yuichiro Oka, Kaichi Ozone, Kazuma Morosawa,Kenji Murata, Naohiko Kanemura, Takanori Kokubun
  DOI :10.1177/19476035211069239
  URL :https://doi.org/10.1177/19476035211069239

問い合わせ先

  埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学研究科/保健医療福祉学部 理学療法学科 
  准教授 国分 貴徳
  E-mail:kokubun-takanori(ここに@を入れてください)spu.ac.jp