脳卒中片麻痺者の非対称な歩行環境に対する足の設置位置の適応能力の解明
歩行が不安定になってしまう脳卒中片麻痺者が、特殊な歩行環境に巧みに適応して歩くことができるかどうかは、足をあらかじめ力学的に有利な位置に接地する能力があるかで決まることを、本学大学院研究科博士後期課程の平田恵介さんをはじめとする、研究科長 金村尚彦教授のグループが明らかにしました。本研究は脳卒中片麻痺者の中で歩行能力を回復する人に必要な能力を明らかにし、リハビリテーション介入のターゲットに迫る可能性があります。
本論文は、科学誌
Journal of Electromyography and kinesiology に掲載されました。
Hirata
K, Hanawa H, Miyazawa T, Kubota K, Sonoo M, Kokubun T, Kanemura N. Adaptive
changes in foot placement for split-belt treadmill walking in individuals with
stroke. Journal of Electromyography and kinesiology 2019; 48: 112–120.
https://authors.elsevier.com/a/1ZPJV3kuroiyxn
上記アドレスから2019年9月5日まで無料でダウンロード可能
研究内容
脳卒中による片麻痺は、片側の手足に運動の麻痺が起こることで、日常生活が困難になる重篤な後遺症です。中でも歩行は重要な移動運動であり、その能力を失うと介護が必要な状態になるため、歩行能力を回復できるかがリハビリテーションの大きな使命の一つです。
この研究は、スプリットベルトトレッドミルという左右で別々のベルトで構成され、歩いている途中で突然片方が速くなる特殊な歩行課題を対象者に課して、そのベルト環境に合わせて歩く対応(歩行適応)をみる実験です。従来、脳卒中者は麻痺があっても健常人と同じように歩行適応できるとされてきました。平田さんらは、本学の22台の赤外線カメラからなる動作解析装置とトレッドミルを用いて、足の位置(Centre
of Pressure)と全身(Centre of mass)の位置関係を運動力学の観点から解析しました。その結果、脳卒中者には2種類に分けられ、足の位置と全身を力学的に安定した位置関係にすることができる人は健常人と同様の適応をしている一方、不安定な位置関係のままの人は歩行適応も健常人に比べて上手くいっていないことが新たにわかりました。このことは、脳卒中片麻痺に対して歩行の改善を目的としたリハビリテーションを行う際に、介入の対象や、目標設定、予後予測の指標を定めるために有力な情報になる可能性があります。
左図:スプリットベルト実験
右図:重心を基準にした足の軌跡図
適応できる人は左右足の接地した前後位置が健常高齢者と同様に対称な傾向なのがわかります。
本研究は、越谷市の老人保健施設シルバーケア敬愛の協力のもと実施されました。