新入生の皆さん、御入学おめでとうございます。
これまで皆さんを育て、温かく見守ってこられた、御家族や関係者の皆様のお慶びもひとしおのことと存じます。心からお祝い申し上げます。
私は理事長の田中滋と言います。
理事長とは埼玉県立大学の運営を担う公立大学法人の経営責任者です。
ところで本学は、多くの大学と同様、昨年度は残念ながら、入学式を中止せざるをえませんでした。
しかし、今年度は入学式を開催することができました。
ここに至るまでの関係者のご努力に対し、深く感謝します。
ただしこの入学式は、新型コロナウイルス感染症の状況に鑑み、参加者を学生と教職員に限定して実施することとしました。
御家族や関係者の皆様には、何とぞご理解を賜りますようお願い申し上げます。
また、同じく新型コロナウイルス感染症対策ゆえに御列席は適いませんでしたが、大野元裕埼玉県知事、木下高志埼玉県議会議長、高橋努越谷市長からは、新入学生への温かい応援の御言葉を頂戴しております。
お忙しい中、誠にありがとうございました。
今年度は、新型コロナウイルス感染症拡大防止のための感染症対策とリスク管理を前提としつつ、対面授業と遠隔授業を機能的に組み合わせていく予定です。
新入生の皆さんも、こうした大学側の工夫を理解した上で、授業に積極的に参加してください。
分からないこと、困ったことに直面した際は、遠慮なく教職員に相談しましょう。
皆、親身に相談に乗ってくれるはずです。
ところで本学は、主に保健・医療・福祉分野の教育を担ってきました。
そこで、短くこの分野の歴史を振り返ってみます。
人が牧畜や農業によって一か所に住み続けられるようになったおよそ1万年前にも、看取りや看病、前近代的な治療の試みや祈りは存在していたでしょう。
しかし、近代医学の始まりはほんの240年前、近代看護の始まりは160年前にすぎません。
日本では、看護教育がスタートしたのが135年前、この分野を管轄する厚生省、今の厚生労働省の前身の一つですね、が発足した年は83年前です。
今では誰もが、医療機関を受療する際に当たり前のように使っている、医療保険制度が日本の全住民をカバーするようになってからまだたった60年。
介護保険制度がこの国のすべての高齢者をカバーし始めた時期は、もっと最近、つい21年前、本学設立の1年後でした。
何が言いたいか。皆さん方の多くがやがて活躍するであろう、保健・医療・福祉の世界はとても新しく、だからこそ、力を合わせれば大きく飛躍、前進させていける分野だと知っていただきたいのです。
私の人生経験でも、そのような可能性を何回も実感してきました。
皆さんも、本学における学びを活かし、単に目の前の業務をこなすだけでなく、
卒業後は国や社会の在り方を前進させてください。
最後に本学の基本理念を取り上げます。理念は三つの言葉で表されます。
いずれも聞きなれない言葉ですが、陶冶、進取、創発の3つです。
「陶冶」は、生まれついた性質や才能を鍛え、練り上げることを意味します。
本学の卒業生の多くは、保健・医療・福祉の分野に従事します。
あるいはそれ以外の分野であっても、働く場では、様々な悩みや苦しみを持つ人に出会うかもしれません。
皆さんはそうした人たちの悩みや苦しみを聞き、寄り添って支える力と心が求められます。
その際は、多様な価値観を受け入れられる包容力、温かく豊かな心、強い責任感が欠かせません。そのための人格の「陶冶」なのです。
「進取」は、従来の慣習にとらわれず、進んで新しい事柄に挑もうとする精神を表します。
社会は絶えず変化しており、学問も現場も日々進歩しています。
自ら積極的に学ぶ姿勢を持ち続けましょう。
「創発」は、いろいろな人や組織などが多数集まる良い環境の下、さまざまな出会いを通じ、質的に異なる高度なシステムが生ずる現象を意味しています。
教職員も学生も、個々に努力する姿勢を基礎としなければなりません。ただし、それをベースとしつつも、仲間同士の努力の相互作用や融合によって、新しい価値を創造していく、生き生きとした大学であり続けるための理念です。
本学は、これまでに8,500名を超える卒業生・修了生を世の中に送り出してきました。その多くは、埼玉県内をはじめ、全国の様々な保健、医療、福祉分野や、官庁あるいは企業などで活躍し、関係者の皆様から高い評価を得ています。
新入生の皆さんも、本学のメンバーとして、学修や研究、良き仲間づくりに励んでください。
皆さんが実り多く、かつ楽しい学生生活を送り、またそれぞれが描く夢を実現できるよう祈念します。
皆さん、ご入学おめでとうございます。
2021年4月2日
公立大学法人埼玉県立大学理事長
田中 滋