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前十字靭帯損傷に対する新たな保存的治療法の開発【国分貴徳   助教】

ニュース

2016/08/12

ー前十字靭帯損傷モデルラットによる新たな保存的治療法の基盤解明ー

埼玉県立大学保健医療福祉学部理学療法学科の国分貴徳助教、同大学院保健医療福祉学研究科リハビリテーション学領域の金村尚彦教授、高栁清美教授らの研究グループは、前十字靭帯損傷モデルラットを使用して、損傷後に膝関節に生じる異常運動を制動することで、関節内における関連遺伝子の発現が変化し、これまでは保存的に治癒することは難しいとされてきた前十字靭帯が、自己治癒することを明らかにしました。この研究は、文部科学省科学研究費、埼玉県立大学奨励研究費などの支援を受けて行われたもので、その研究成果は米国スポーツ整形外科学術誌The American Journal of Sports Medicineのオンライン版で、2016年8月9日(米国東部時間)に発表されました(文献1)。
研究の背景
靭帯は、体の中の各関節において骨と骨を繋ぐ組織で、筋肉が骨に伝える力を関節の運動として表現するうえで重要な組織です。前十字靭帯は膝関節内の中心部に存在し、他の関節と比較して構造的に非常に不安定な膝関節を、安定的に動かすうえで非常に重要な役割を担っています。そのため、スポーツ動作などでの損傷・断裂にいたる頻度が非常に高いのですが、完全損傷してしまうと他の靭帯のように一般的な治療を行っても治らないことが知られていました。そのため、現状では患者さん自身から他部位の腱を採取し、損傷した前十字靭帯部に移植し再建する手術治療が一般的です。一方、前十字靭帯損傷に対する現状の保存療法は、膝関節の筋力などを維持することで日常生活動作能力を保持することを目的としており、損傷した靭帯自体の治癒は期待されておりませんでした。
研究成果の概要
国分助教・金村教授・高栁教授らの研究グループでは、前十字靭帯損傷モデルラットを対象として、損傷後に生じる下腿部(脛骨)が前に引き出されてしまう異常運動を、関節の外側から制動することで、前十字靭帯損傷後も正常な関節運動に近い運動を維持することができるオリジナルモデルを作製し、前十字靭帯損傷後の治癒経過を観察しました。
異常運動を制動したラットモデル

前十字靭帯損傷後に特別な介入を行わずにそのまま放置した群では、これまで同様に前十字靭帯は治らず、時間と共に退縮していきました。これに対し、前十字靭帯損傷後に介入により下腿部(脛骨)の前方引き出しを制動したモデルでは、前十字靭帯が時間と共に治っていくことが観察されました。
前十字靭帯の治療反応

これまで「自己治癒しない」と言われてきた前十字靭帯ですが、今回治療した前十字靭帯に対して特殊な染色法を行うと、他の自己治癒する靭帯と同じような反応がみられることがわかりました。治癒過程においては、治癒に関連するいくつかの遺伝子で、他の靭帯の治癒過程と同様の発現を示していることが明らかとなりました。
治療した前十字靭帯の治癒反応

また、今回治癒した前十字靭帯が、正常の前十字靭帯と比較してどのぐらいまで強い組織に回復しているかを測定してみると、損傷後8週間時点においては正常の54%程度まで回復していることがわかりました。これは、現在一般的に行われている他部位の腱を採取し移植する手術的治療法と比較して、差のないレベルということができます。
研究成果の意義
これまで前十字靭帯損傷に対する基礎研究では、なぜ保存的に治癒しないかについては非常に多くの理由が報告されてきています。今回の研究成果は、それらの報告とほとんど同一の条件でありながら、関節に生じる異常な運動を起きないようにしながらかつ正常に近い関節運動を維持することで、関節内の治癒反応が変化し、前十字靭帯が保存的に治癒することを明らかにした、はじめての報告です。
本研究の成功は、まだ実験動物を対象とした成果ではありますが、前十字靭帯損傷に対する治療法に、自己治癒を期待する保存的治療法が新たな選択肢として加わる可能性があることを示唆しています。また、特別な介入を行わず、異常な運動を正常化することのみで組織の治癒反応が異なることを明らかにしたことで、今後の運動器損傷に対するリハビリテーション研究の新たな突破口として期待されます。
 
問い合わせ先
公立大学法人   埼玉県立大学   保健医療福祉学部
理学療法学科   国分貴徳(コクブン タカノリ)
TEL:048-973-4123   FAX:048-973-4123
E-mail:kokubun-takanori(ここに@を入れてください)spu.ac.jp
 
発表論文へのアクセス
Kokubun T,Knemura N,et al.(2016)Effect of changing the joint kinematics of knees with a ruptured anterior cruciate ligament on the molecular biological responses in a spontaneous healing in a rat model. Am J Sport Med. Online.